肝炎はワクチンで予防可能な性感染症!
A型肝炎とB型肝炎は性感染症により感染することがあります。どちらも感染すると、まれに重症化し、入院が必要な場合もあります。
B型肝炎は感染が長く持続することで、肝がんのリスクになることも知られています。
A型肝炎、B型肝炎はいずれもワクチンで予防できる性感染症です。当院では2つの肝炎を同時に予防可能なA型・B型肝炎混合ワクチンも取り扱っています。
この記事で言いたいこと
・A型肝炎とB型肝炎の感染力は強いが、性感染症の中で、数少ないワクチンで予防できる病気である。
・B型肝炎ワクチンは性感染症の予防だけではなく、がんの予防が可能なワクチンでもある。
・当院では2種類の肝炎を同時に予防可能なA型・B型肝炎混合ワクチンを取り扱っている。
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肝炎について
肝炎には急性肝炎と慢性肝炎があります。
急激に肝細胞が破壊され肝機能が低下する病気を急性肝炎といい、発熱・倦怠感などの症状が出現します。
慢性肝炎は肝機能の異常が6ヶ月以上続く状態です。多くは肝炎ウイルスが原因で、A型、B型、C型、D型、E型の5種類があります。
急性肝炎は自然回復する可能性が高いですが、重症化すると、劇症肝炎と呼ばれるきわめて重い病態に移行します。
A型肝炎ウイルスについて
A型肝炎ウイルスによる肝炎は急性肝炎で、慢性化することなく自然回復しますが、重症化することもあり、注意が必要です。
糞便-経口感染(便から排出されてウイルスがなんらかの原因で口に入ることで感染する)が基本で、肛門周囲をなめる行為でも感染します。
感染力は強く、家族内やパートナー間などで感染することが多いです。上下水道の整っていない場所では汚染された水を介して感染することもあります。
4年ごとに突発的な流行(アウトブレイク)が起きますが、理由はわかっていません。2018年は大阪市でアウトブレイクがあり、感染経路の8割近くが性的接触でした。予防方法としてA型肝炎ワクチンがあります。
A型肝炎ワクチンは、下記の方に適応があります。
こんな人におすすめ
・複数の性的パートナーを持つ方(オーラルセックスを含む)
・海外への渡航予定がある方
・免疫不全や慢性肝疾患、糖尿病など、 基礎疾患によってA型肝炎が重症化するリスクがある方 など
費用:1回あたり8,000円
接種回数:3回
スケジュール:初回、1ヶ月後、6ヶ月後
国産ワクチン(エイムゲン®)は安全で効果が高いワクチンの1つです。3回の接種でほぼ100%の抗体獲得が期待できます。3回接種するとその後約5年は効果が持続し、感染リスクがある場合は 10〜20年ごとの追加接種(1回)が推奨されます。
B型肝炎ウイルスについて
B型肝炎は、急性肝炎と慢性肝炎の両方を起こします。
B型肝炎ウイルスによる急性肝炎は1~2%に劇症肝炎を起こすこともあり、適切な治療が行われない場合、高頻度で死に至ります。また、慢性肝炎は肝がんのリスクになります。
近年では性的接触による感染が多くを占めていると考えられています。
血液関連や性的接触による感染だけでなく、傷のある皮膚への汗や唾液、涙などの体液の付着でも感染するほど感染力が強いことが特徴です。
過去には相撲部やアメフト部などコンタクトスポーツの部活動内でのアウトブレイクも報告されています。
日常生活の中でB型肝炎ウイルスの暴露を完全に防ぐことは困難です。予防方法としてB型肝炎ワクチンがあります。
B型肝炎ワクチンは、下記の方に適応があります。
こんな人におすすめ
・複数の性的パートナーを持つ方(オーラルセックスを含む)
・B型肝炎の方のセックスパートナーがいる方、同居家族
・医療関係者 など
費用:1回あたり7,000円
接種回数:3回
スケジュール:初回、1ヶ月後、6ヶ月後
国産B型肝炎ウイルス(ビームゲン®)を接種することによって獲得した免疫は、少なくとも15年間は持続することが確認されています。接種年齢が高くなるにつれて効果は低くなり、例えば40歳過ぎでワクチンにより免疫を獲得できるのは約8割と言われています。
ワクチンの効果は国にも認められており、2016年からは乳幼児の定期接種の対象となっています。一方、2016年3月31日以前に生まれた方は定期接種を受けていないため、ワクチンを接種していないことになります。(ご自身で任意接種をされた方を除く)
A型・B型肝炎混合ワクチンについて
当院では、A・B型肝炎ワクチンをいずれも同時に接種できる「混合ワクチン」を用意しております。
A型肝炎、B型肝炎はいずれも性感染症で感染し、ワクチンのスケジュールも同一です。
混合ワクチンは、A型・B型肝炎ワクチンを単発で接種するより、費用面でも安いため、ぜひご検討ください。
費用:1回あたり13,000円
接種回数:3回
スケジュール:初回、1ヶ月後、6ヶ月後
A型肝炎とB型肝炎の両方に対して10~15年程度の抗体持続が期待できます。
HPVワクチンについて
A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチンと同様に「性感染症」と「がん」が予防できるワクチンにHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンがあります。
HPVは、主に性交渉によって感染するウイルスで、性経験のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされている一般的なウイルスです。
女性は80%以上、男性は90%以上が一生で何らかのHPVに感染する可能性があります。(感染しても自己免疫力によって自然排除されることもあります)
尖圭コンジローマ(いぼ)や様々ながんに効果があり、男性・女性ともに非常に効果の高いワクチンとして知られています。
HPVワクチンと尖圭コンジローマに関する記事は、下記をご参照ください。
▶NID国立感染症研究所 2018年のA型肝炎アウトブレイクにおける感染経路の特徴―大阪市
▶日本性感染症学会 性感染症 診断・治療ガイドライン 2020
<医師 塩尻 大輔> パーソナルヘルスクリニック院長、医学博士。 国立国際医療研究センター(東京都新宿区)とパーソナルヘルスクリニックにて、HIVやPrEPをはじめ、性感染症・性病検査に関する科学的根拠に基づいた正しい知識と、患者様の心に寄り添った医療を提供されています。 日本生まれですがアフリカのケニア育ちで、現地でも医師免許を取得しており、医療支援や教育支援等を実施されています。 当院でも非常勤医師として診療いただいております。