HIV / PrEP・PEP

U=Uとは?〜大切な人にHIVを感染させないために〜

U=Uとは?〜大切な人にHIVを感染させないために〜

みなさんはU=Uという言葉を聞いたことがありますか?

これは「Undetectable = Untransmittable(ウイルスが検出されない=他の人に感染させない)」という意味で、HIVの治療を継続し、ウイルス量が「検出限界未満」に保たれている場合、HIVを他人に感染させない、というとても大切な考え方です。

HIVに感染したと知ったとき、「恋人にうつしてしまったらどうしよう」「普通の生活ができるのか不安」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、現在の医療の進歩によりHIVに感染していても適切な治療を受ければ、他の人にうつさずに健康な生活を送ることができます。

この記事ではU=Uについて分かりやすく解説していきます。

この記事で言いたいこと

・HIVは治療によって他人に感染させなくなる。

・HIVに感染しても平均余命は変わらず、安心して日常生活を送れる。

・治療を自己中断すると薬が効かなくなる可能性がある。

・HIV陽性のパートナーがいる方にとって、PrEPは安心できる予防策になる。

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U=Uとは?

HIVの治療を継続し、ウイルス量が“検出限界未満”に保たれている場合、性行為においてHIVは他人に感染しない、という意味です。

この考え方は2016年、アメリカの市民団体「Prevention Access Campaign(PAC)」から始まり、現在ではCDC(疾病予防管理センター)やWHO、UNAIDSといった国際的な保健機関も公式に支持しており、今やHIVに関する世界の常識になっています。

「U=U」

正式には「Undetectable = Untransmittable(検出限界未満=感染させない)」と表現されます。

HIV医療において非常に重要なメッセージです。

「ウイルス検出限界未満」とは?

HIVに感染している人でも、毎日薬を飲み続けることで、体内のHIVウイルス量を血液検査で検出できないほど(日本では20コピー/mL未満、世界では200コピー/mL未満)に抑えることができます。

この状態を「検出限界未満(Undetectable)」といいます。検出限界未満を継続することで、他の人にHIVを感染させる心配はないと言われています。

その為には治療を途中でやめず、定期的に検査や診察を受けながら薬を正しく飲み続ける事がとても大切です。

当院は自立支援医療の指定医療機関ですので、HIVの継続的な診察・検査・治療を行うことができます。

世界の研究とエビデンス

U=Uの科学的根拠で有名なのがPARTNER研究(2016年、2019年)およびOpposites Attract研究(2017年)という国際的な大規模研究です。

これらの研究では、HIV陽性の人が薬によってウイルスを検出できないレベル(200コピー/mL未満)にまで抑えられているかどうかが注目されました。

対象となったのは、「片方がHIV陽性で、もう一方が陰性」の同性、異性カップルたちです。

これらのカップルは、研究を合わせておよそ15万回以上のコンドームなしの性行為を行っていましたが、ウイルスが検出できない状態である限り、相手にHIVがうつったケースは一件もありませんでした。

この結果は、HIVの感染リスクが「低い」のではなく、「実際にゼロである」と科学的に証明されたという、とても大きな意味を持ちます。

治療を続けることの大切さ

HIVは現代の医療でうまく管理できる病気となりました。

そのためには、薬を定期的に飲み続けることが不可欠です。治療の途中で薬を止めてしまったり、自己判断で飲む回数を減らしたりすると、ウイルスが薬に対して耐性を持ち、効きにくくなります。

この耐性ウイルスが増えてしまうと、元の治療方法では効果が得られず、別の薬に切り替えなければならなくなることもあります。

また、治療を継続し、ウイルス量が「検出限界未満」を維持することで、他の人に感染させるリスクはゼロになります。

このことは、HIV陽性の人が健やかな生活を送るために非常に重要です。

治療を続けることが、家族やパートナーを守るためにも必要なステップとなります。

パートナーがHIV陽性の場合のPrEPという選択肢

パートナーがHIV陽性で、ウイルス量が「検出限界未満(Undetectable)」の状態をしっかり保っている場合、性行為でHIVが感染することはありません。

しかし、それでもHIV陰性のパートナーがHIV予防薬であるPrEPを使うことが意味のある選択になることもあります。以下のようなケースが該当します。

・パートナーが薬をよく飲み忘れる、最近のウイルス量が不明などHIV治療を確実に継続できていない場合。

・他にも性行為を持つパートナーがいる場合。

・「U=Uでも、やっぱり不安がある」など、安心材料として使いたい場合。

・妊娠を希望していて、感染リスクをゼロに近づけたい場合。

PrEPは、自分の体と心を守るための選択肢のひとつです。

U=UとPrEPは、どちらかを選ばなければならないというものではなく、ライフスタイルや気持ちに合わせて自由に選べるものです。

当院では、HIV陽性の方だけでなく、陰性パートナーの方に向けたPrEPのご相談・処方も行っています。

また、HIV以外の性感染症の予防方法(ワクチンやドキシペップなど)についても気になる方はぜひお気軽にご相談ください。

この記事を監修した医師

<医師 塩尻 大輔>
パーソナルヘルスクリニック院長、医学博士。
国立国際医療研究センター(東京都新宿区)とパーソナルヘルスクリニックにて、HIVやPrEPをはじめ、性感染症・性病検査に関する科学的根拠に基づいた正しい知識と、患者様の心に寄り添った医療を提供されています。
日本生まれですがアフリカのケニア育ちで、現地でも医師免許を取得しており、医療支援や教育支援等を実施されています。
当院でも非常勤医師として診療いただいております。