ジェンダー外来

トランスジェンダーと不正出血について〜子宮・卵巣がある場合〜

トランスジェンダーと不正出血について〜子宮・卵巣がある場合〜

当院では2023年10月からジェンダー外来を開設しており、2024年9月までで述べ約500名の方が受診されています。

その中で、子宮卵巣があるトランスジェンダーの方から「テストステロン療法を開始したのに不正出血が止まりません」「ホルモン製剤の種類を変えたら不正出血が来ました。体に合っていないのではないでしょうか?」という質問をいただくことがあります。

2020年の文献によると、どのテストステロン製剤が最も効果的に不正出血を止めるのかはまだ分かっていません。

今回は子宮・卵巣のあるトランスジェンダーと不正出血について解説していきます。

この記事で言いたいこと

・テストステロン療法中でも不正出血は誰にでも起こる可能性がある。

・不正出血の原因はホルモン値が低いだけではなく様々な原因が考えられる。

・不正出血が持続する場合は医師の診察、採血が必要である。

目次の各項目をクリックすると、記事の途中までジャンプすることができます。

不正出血の原因について

不正出血とはホルモンの異常や様々な病気により月経以外に性器から出血することを言います。

子宮・卵巣があるトランスジェンダーの不正出血の原因については下記があります。

テストステロン値が低い

世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会(WPATH)ではテストステロン値を4~7ng/mlで維持するのが良いとされています。

テストステロン値が低いと不正出血が起きることがあるので、気になる方はテストステロンの投与量や投与間隔について医師と相談しましょう。

テストステロンの維持は、長期作用型男性ホルモン製剤であるネビドジェネリックを用いることにより、短期作用型男性ホルモン製剤よりも安定させることが可能です。


破綻出血

女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)のバランスが崩れてしまい、子宮内膜が厚くなりすぎて維持出来ず、子宮内膜がはがれて破綻出血が起こります。

破綻出血はテストステロン値が十分でも、長期間テストステロン療法を行っていても起きる可能性があります。続く場合は黄体ホルモン製剤内服などの治療方法があります。

子宮の病気、がん

子宮筋腫、ポリープ、子宮頸がんや子宮体がんなどがある場合、不正出血が起きる可能性があります。

テストステロン値を見直しても不正出血が続く場合は子宮・卵巣の病気がないかのチェック、がん検査を行うことを検討しましょう。

当院より、トランスジェンダーの方も通いやすい婦人科のクリニックをご紹介することが可能です。

子宮内膜の萎縮や増殖

テストステロン療法により腟が萎縮(萎縮性腟炎<いしゅくせい ちつえん>)すると、不正出血が起こることがあります。

萎縮性腟炎の場合、腟内がすれて出血をしたり、性交渉後に出血する場合があります。

一方で、テストステロン療法によって内膜が増殖する場合もあります。子宮内膜が萎縮する方もいれば増殖する方もいる理由については、まだわかっていない部分が多いと言われています。

テストステロンジェルを使用している

注射製剤よりもジェル製剤の方が不正出血が起きやすい可能性があると言われています。当院では長期作用型テストステロン製剤であるネビドジェネリックを取り扱っております!


妊娠

子宮卵巣があるトランスジェンダーの方は、腟内で射精を伴う性交渉がある場合、テストステロン療法中でも妊娠する可能性があります。

妊娠の可能性がある行為後の不正出血の際には、妊娠検査薬を使用し、妊娠の有無の確認をしましょう。

不正出血は様々な原因で起こる可能性があるので、気になる場合は医師に相談しましょう。医師の診察は大変重要です。

テストステロン療法と不正出血

テストステロン療法を開始して出血が止まるまでには個人差があります。

2020年の文献によると、テストステロン療法開始3か月で約45%、テストステロン療法開始1年では約12%で出血が止まっていなかったと報告されています。また、2024年の文献では、1年以上テストステロン療法を継続している方の中の約34%が不正出血を経験したと報告されています。

テストステロン療法中の不正出血は誰にでも起こりうる可能性があります。

不正出血がある場合

不正出血は様々な原因で起こる可能性があるので、出血が持続する場合は必ず医師の診察をうけましょう。また、血液検査によって原因を探すことがとても重要です。

当院では全日ホルモン採血や内科採血を受けることが出来ます。お気軽にご来院ください。

黄体ホルモン製剤について

不正出血の原因が子宮内膜の増殖である場合、黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤を内服することで不正出血が改善することがあります。

黄体ホルモン製剤を服用している期間は体内の黄体ホルモンの量が多くなり子宮内膜が剥がれにくくなるためです。

当院では黄体ホルモン製剤の処方が可能です。詳しくは医師にお尋ねください。

この記事を監修した医師

池袋 真(医師、産婦人科専門医、GI学会認定医)

パーソナルヘルスクリニックでジェンダー外来を担当。2年間で約3000名以上のトランスジェンダーの診療を行っており、トランスジェンダーのヘルスケア・セクシュアルヘルスケアを専門的に行っている。