3か月に1回でOK〜デポプロベラ(避妊注射)をわかりやすく解説します〜
「毎日ピルを飲むのが大変」「飲み忘れが心配」「月経を止めたい・軽くしたい」そんな方に選ばれている避妊方法が、デポプロベラ(避妊注射)です。
デポプロベラは、3か月に1回の注射で避妊効果が続く方法で、飲み忘れがなく、実生活の中で失敗が起こりにくいことが特徴です。
この記事では、デポプロベラの基本から、月経への影響、トランス男性の方への大切なポイントまで、患者さん向けにわかりやすく解説します。
この記事で言いたいこと
・デポプロベラは「3か月に1回」に注射する続けやすい避妊方法です。
・継続することで月経が軽くなったり止まったりする方が多く、避妊と月経コントロールを同時に考えることができ、トランス男性にも有効です。
・避妊や月経の悩みは、性別やライフスタイルを問わず一人で抱え込む必要はなく、自分に合った方法を医療者と相談しながら選びましょう。
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デポプロベラ(避妊注射)とは?
デポプロベラは、3か月に1回注射するタイプの避妊方法です。
黄体ホルモン(プロゲスチン)というホルモンが注射に含まれており、排卵を抑え、妊娠を防ぐ働きがあります。
毎日お薬を飲む必要がなく、「注射を受けたら、次は3か月後」というシンプルさが大きな特徴です。
特徴と避妊効果
デポプロベラには、下記のように飲み薬と比較してもメリットの多い製剤です。
デポプロベラの主な特徴
・3か月に1回の注射でOK
・飲み忘れがない
・高い避妊効果
・月経が軽くなる/止まる人が多い
特に、下記のような方に向いている避妊方法です。
こんな方におすすめ
ピルを飲み忘れてしまうことがある
毎日の服薬が負担に感じる
・正しく続けた場合:99%以上
・一般的な使い方でも:約96%
とされています。
毎日飲む必要があるピルと比べて、実際の生活の中で服薬の失敗が起こりにくいという点が大きなメリットです。
注射のタイミング
デポプロベラのタイミングは、基本的に12週間に1回行います。
基本のスケジュール
・3か月(12週)に1回の注射
・ただし、12〜15週以内であれば、そのまま注射できます
デポプロベラは通常12~13週(約3か月)ごとの投与を基本としていますが、医学的には13~15週の範囲での投与でも効果に問題ないとされています。
また、次回投与が多少早まる場合であっても、効果や安全性に大きな問題はありません。
早く来院した場合
・12週より早くても問題なく注射できます
・次回の予定日は、元のスケジュールのままです
15週を超えてしまった場合
・注射は可能ですが、注射後7日間はコンドームなどの追加避妊が必要です
・5日以内に避妊具なしの性行為があった場合、緊急避妊や2〜4週間後の妊娠検査をご案内することがあります
※来院時に、医師・看護師が状況を確認しながら説明しますのでご安心ください。
注射後の月経
デポプロベラを始めたあとの月経の変化には、個人差があります。
・少量の出血が続く
・月経のタイミングが不規則になる
これらは、使い始めの数か月に起こりやすい変化です。
デポプロベラは、続けるほど月経が起こりにくくなります。
・1年ほどで約半数の方が無月経
・2年ほどで7割前後の方が無月経
「月経を止めたい」「月経量を減らしたい」という理由で、デポプロベラを選ばれる方も少なくありません。
無月経は体に悪い状態ではありません。気になる症状がある場合は、いつでもご相談ください。
ピルから注射に変更する方法
ピルやミニピルを使用している方が、デポプロベラへ変更することも可能です。
・月経中でなくても注射は可能です
・タイミングによっては、注射後7日間、ピルの継続またはコンドーム併用をお願いすることがあります
切り替え時のポイント
・ピルをやめるタイミング
・追加避妊が必要かどうか
は、来院時に医師・看護師が確認します。
「いつ切り替えればいいか分からない」という場合も、そのまま来院して相談していただいて大丈夫です。
トランス男性に対するデポプロベラ
テストステロン療法は、避妊にはなりません。
無月経であっても、精子に触れる可能性がある性行為があれば、妊娠する可能性があります。
デポプロベラのメリット
・高い避妊効果
・月経停止の確実性が高い
・毎日の服薬が不要
そのため、トランス男性(AFABトランスジェンダー)の方にとって、避妊と月経コントロールを同時に考えられる選択肢の一つです。
いだてんクリニックでは、ジェンダー外来における治療の一環として、月経停止や避妊の相談を承っています。
単に妊娠を防ぐためだけでなく、なりたい性に近づく過程での身体的・心理的負担を減らすことを大切にしています。
デポプロベラの特徴(トランス男性の方)
・エストロゲンを含まない→なりたい性に近づくことを阻害しにくい
・月経停止の確実性が高い→継続すると、多くの方で無月経になります
・避妊効果が高い→飲み忘れがなく、実生活での失敗が少ない
・毎日の服薬が不要→注射は3か月に1回のみ
・テストステロン療法と併用可能→ ただし、テストステロン自体は避妊効果を持たないため、別途避妊が必要です
デポプロベラは、トランス男性(AFABトランスジェンダー)の方にとって、「月経停止」と「避妊」を同時に考えやすい選択肢の一つです。
一方で、注射という方法が合うかどうか、将来、妊娠を考える可能性があるかどうかなど、人によって優先したいポイントは異なります。
いだてんクリニックでは、「月経を止めたい」「避妊をしっかりしたい」「まずは相談だけしたい」など、その時点での希望を大切にしながら、無理のない方法を一緒に選んでいくことができます。
副作用・注意点
デポプロベラは多くの方が安全に使用できる避妊方法ですが、体質や使用期間によって起こりうる変化もあります。
よくみられる副作用
・不正出血(少量の出血が続くことがあります)
・月経のリズムが不規則になる
・頭痛、だるさ、気分の変化
・体重の変化
特に使い始めの数か月は、不正出血が起こりやすいですが、多くの場合、時間とともに落ち着いていきます。
骨の健康について
デポプロベラを長期間使用すると、骨密度が一時的に低下する可能性があることが知られています。
そのため、いだてんクリニックでは、
・長期継続の場合は定期的に使用継続の見直し
・生活指導(運動・栄養・喫煙習慣など)
・追加検査が必要な方には、検査の提案・実施
を行いながら、安全に使えるかを一緒に確認していきます。
デポプロベラ使用中の骨の健康を守るため、米国産婦人科学会(ACOG)などでも、歩行や階段などの体重がかかる運動、禁煙、カルシウム・ビタミンDを意識した食事が勧められています。
※使用をやめると、骨密度は回復することが多いとされています。
デポプロベラの使用前/使用中に、下記に当てはまる場合は必ずお申し出ください。
・デポプロベラの使用前/使用中に、下記に当てはまる場合は必ずお申し出ください。
・軽い転倒などでも骨折したことがある
・骨粗しょう症と言われたことがある
・体重がかなり少ない、または急に体重が減った
・長期間ステロイド薬を使用している
・腎臓の病気、吸収不良、甲状腺の病気がある
・腰や背中の痛みが続く、身長が縮んだ感じがする
これらに該当する場合でも、すぐに使用できなくなるわけではありません。
症状や背景をふまえたうえで、継続の可否や他の選択肢について一緒に相談することができます。
海外のガイドラインでは、デポプロベラ使用中に骨密度検査(レントゲン検査)を定期的に行うことは必須ではないとされています。
一方で、骨の健康に影響する要因がないかを確認することは重要とされており、いだてんクリニックでは、必要に応じて血液検査による「骨の健康チェック」を行うことができます。
検査内容:Ca、ALP、25(OH)D、P、Cr(2,500円、税込)
※デポプロベラ使用中の方は、1年に1回の採血を推奨しております。
料金
いだてんクリニックでは、継続しやすい料金設定を心がけています。
1回
・通常料金:9,000円(税込)
・HIV-PrEP/ドキシペップ/膣カンジダ予防薬のいずれかを当院で購入している方:8,000円(税込)
3回セット
・通常料金:25,000円(税込)
・HIV-PrEP/ドキシペップ/膣カンジダ予防薬のいずれかを当院で購入している方:22,000円(税込)
※2回目以降で、前回から12〜15週以内に来院された場合は、診察料は不要です。
※デポプロベラの使用を行うにあたり、当院の基準で高リスクに該当する方は、1年に1度の診察をお願いしております。
よくある質問
質問の多い項目を下記にまとめましたので、ぜひご覧ください。
注射は痛いですか?
通常、肩(上腕)の筋肉に注射します。 ワクチン注射と同程度で、強い痛みは通常ありません。
いつから避妊効果がありますか?
注射するタイミングによって異なります。 必要な場合は、最初の7日間はコンドームの併用をお願いしています。 来院時に個別にご説明します。
性感染症(HIVや梅毒など)は防げますか?
デポプロベラは避妊のみを目的とした方法です。 性感染症の予防には、コンドームの使用やHIV予防薬・性病予防薬が必要です。
将来、妊娠を希望した場合は?
注射をやめてから、平均7〜10か月程度で妊娠が可能な状態に戻ることが多いです。 「いつ頃妊娠を考えているか」は、事前にご相談ください。
月経が止まっても大丈夫ですか?
デポプロベラによる無月経は、病気ではなく、体に悪い状態ではありません。 気になる症状がある場合は、いつでもご相談ください。
トランス男性ですが、相談しても大丈夫ですか?
もちろんです。 当院ではジェンダー外来として、月経停止・避妊を含めた相談を日常的に行っています。 安心してご相談ください。
▶ CDC. Contraception: Injectables (Depot medroxyprogesterone acetate [DMPA]) — U.S. SPR (2024)
▶NHS. How and when to have medroxyprogesterone contraceptive injections.
▶WPATH. Standards of Care for the Health of Transgender and Gender Diverse People, Version 8 (SOC8).
▶FSRH. Contraceptive choices and sexual health for transgender and non-binary people (Oct 2017).
<医師 塩尻 大輔> パーソナルヘルスクリニック院長、医学博士。 国立国際医療研究センター(東京都新宿区)とパーソナルヘルスクリニックにて、HIVやPrEPをはじめ、性感染症・性病検査に関する科学的根拠に基づいた正しい知識と、患者様の心に寄り添った医療を提供されています。 日本生まれですがアフリカのケニア育ちで、現地でも医師免許を取得しており、医療支援や教育支援等を実施されています。 当院でも非常勤医師として診療いただいております。