刺されない旅のための防蚊対策ガイド~マラリア・デング熱・日本脳炎を防ぐために~
海外旅行や留学、出張で熱帯・亜熱帯地域へ行くとき、蚊は単なる不快な虫ではありません。マラリアのように重症化する感染症を運ぶこともあれば、日本脳炎のようにワクチンで備えられる病気、デング熱のように「刺されないこと」が最大の予防になる病気もあります。
この記事では、渡航前から現地での過ごし方まで、日常の中で実践しやすい防蚊対策をまとめました。あわせて、マラリア予防薬を検討しやすい場面の目安と、当院で処方可能な予防薬や日本脳炎ワクチンの費用についても記載します。
この記事で言いたいこと
・マラリアは重症化する可能性がある一方で、予防できる感染症です。
・渡航先や滞在内容によっては、予防薬の内服が強くすすめられます。
・予防薬と防蚊対策を組み合わせることで、安心して海外渡航ができます。
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蚊に刺されることで感染する病気
日本では蚊は「刺されるとかゆい」「やっかい」のような印象ですが、実は世界中で年間70万人以上の死亡例を出す世界で最も人を殺す生物なのです。
蚊に刺されることで感染する病気でよく耳にするものはマラリアかと思います。しかし、マラリアのみでなく日本脳炎や黄熱、デング熱、チクングニア熱など様々な病気があります。
蚊が媒介する感染症は、国や地域によって異なります。また、病気によって蚊が活発な時間帯が違うため、対策の重点も変わります。一般に、デング熱などを運ぶ蚊は日中に活動し、マラリアを運ぶ蚊は夕方〜明け方に活動するとされています。そのため、滞在場所で流行している蚊媒介感染症を知り、それに合わせて対策を行う必要があります。流行地域では刺されない対策を徹底し、必要に応じて予防薬やワクチンを追加しましょう。
代表的な病気と対策
蚊が刺しやすい時間帯の目安
夕方〜夜〜明け方
対策
防蚊対策に加えて、流行地では予防薬を検討
蚊が刺しやすい時間帯の目安
日中も注意
対策
感染機会から4〜6週間以降
肝臓の炎症による症状や慢性化に注意が必要です。防蚊対策が中心
蚊が刺しやすい時間帯の目安
地域・環境による
対策
防蚊対策に加えて、必要に応じてワクチン接種を検討
防蚊対策が必要になりやすい状況
防蚊対策の必要度は、国だけでなく「季節・場所・過ごし方」で大きく変わります。雨季、農村部や水辺、夜間の屋外活動、宿泊環境などでリスクが上がりやすくなります。
蚊は水で繁殖するため、水を溜めない、又は水を頻回に交換することが大切です。
ハマダラカ(マラリア)はきれいな水で繁殖するため都心より田舎に多く見られます。ネッタイシマカ(デング熱・チクングニア熱など)は植木鉢の受け皿等、少量の水でも繁殖し、都心部でも繁殖する傾向にあります。
マラリアのリスクが高い状況
・地方
・長期滞在
・雨季の後半
・標高が低い 水辺
・屋外活動が多い
・夜間に活動する
・窓が開いている宿
マラリアのリスクが低い状況
・都市部
・短期滞在
・乾季の後半
・標高が高い 標高2000m以上
・屋内中心
・日中中心
・空調のあるホテル
生活の中での防蚊対策
生活の中で虫よけを利用することが効果的です。しかし、虫よけだけでは不十分なことがあります。服装、行動、宿の環境をセットで整えると、刺される機会を減らしやすくなります。
服装
ゆったりした長袖・長ズボンで肌の露出を減らす
シャツの裾はズボンに入れ、足首は靴下で覆う
素足のサンダルより、つま先が覆える靴を選ぶ
時間帯
マラリア流行地では夕方〜明け方が特に重要夜間の外出は避け、外出する場合は対策を厚めに
デング熱などが流行する地域では、日中も対策を継続する
宿泊環境
可能なら網戸や空調がある宿を選ぶ
網戸がない、屋外で寝る可能性がある場合は蚊帳を準備する
窓やドアの開けっぱなしを避け、室内に蚊を入れない
リスクのある地域では、下記のチェックリストを参考に準備しましょう。
・虫よけ(DEET配合) 成人はDEET30%程度が目安
・長袖・長ズボン、靴下
・宿泊の環境に応じて蚊帳
虫よけの選び方
蚊に刺されない工夫として、虫よけはとても大切です。特に、DEET配合の虫よけを選ぶことで効果が期待できます。DEETとは日本では50年以上使用され、1回の使用で長時間効果が保つことから、世界的に最も多く使用されている虫よけ成分です。渡航の際は、DEET30%の商品がオススメです。
DEET30%を目安にする理由
旅行中は汗をかいたり移動が続いたりして、塗り直しが途切れがちです。DEET30%程度の製品は一定時間の持続が期待でき、対策の抜けを減らしやすい点がメリットです。
DEET配合の虫よけは日本の薬局や通販サイトでも購入が可能です。渡航先で入手できるか不安な場合は、日本で準備しておくと安心です。
例: 医薬品 サラテクトミスト リッチリッチ30 200ml
(12歳未満のお子様にはご使用になれません。)
・露出している皮膚にムラなく塗る
・製品の表示に従って塗り直す
・日焼け止めを使う場合は、日焼け止めを先に塗り、その後に虫よけを重ねる
・部屋に戻ったら洗い流す
マラリア予防薬
マラリアはハマダラカが媒介する感染症で、潜伏期を経て発症します。流行地に渡航する場合は、防蚊対策に加えて予防薬の内服を検討することが重要です。予防薬は正しく内服することで、高い予防効果が期待できます。
マラリアが流行している地域
マラリアの主な流行地は、サハラ以南アフリカ、東南・南アジア、中南米、パプアニューギニア、ソロモン諸島などの熱帯・亜熱帯地域です。マラリア予防専門家会議では、下記の方を「予防薬の絶対適応」としています。
・高度流行地に1週間以上滞在する方
・マラリア発病後に適切な医療機関がない地域に滞在する方
出典: 出典:国立国際医療研究センター 国際感染症センター トラベルクリニック「マラリア予防Pocket Guide」
予防薬を強く検討したいときの目安
次の条件が重なるほど、予防薬の必要性が高くなります。
・地方や森林、水辺に滞在する
・雨季の後半に滞在する
・夜間の屋外活動がある
・網戸や空調がない宿に泊まる
・滞在が1週間以上になる
マラリア予防薬の料金と使い方
日本で承認されているマラリア予防薬はマラロンとメファキンです。当院トラベル外来では、渡航先・滞在内容・既往歴や内服中のお薬を確認したうえで、内服スケジュールと費用をご案内しています。
| 薬剤 | 内服方法(要点) | 料金(税込) |
|---|---|---|
| マラロン(1日1錠) | 渡航1~2日前から開始 帰国後1週間継続 | 750円/日 |
| メファキン(週1錠) | 渡航1~2週前から開始 帰国後4週間継続 | 1,100円/週 |
ドキシサイクリンは、日本ではマラリア予防薬として承認されていないため、当院ではマラリア予防目的での処方は行っておりません。
マラリア予防薬の詳しい説明については、下記のブログをご参照ください。
日本脳炎対策
日本脳炎は蚊が媒介する感染症で、渡航先や滞在内容(農村部での滞在、屋外活動、滞在期間など)によってはワクチン接種を検討します。
| ワクチン | 料金(税込) | 接種回数 |
|---|---|---|
| 日本脳炎ワクチン (ジェービックV) | 7,500円/回 | 1or3回★ |
★幼少期に基礎接種が完了している場合は、追加1回で対応できることがあります。
接種スケジュールは渡航日から逆算して組みます。渡航までの期間が短い場合でも、可能な範囲でご提案します。
予約
予防薬の処方や予防接種は予約なしでも接種が可能です。
予約の方を優先にご案内しておりますので、予定が決まっている場合は下記よりご予約をお願いいたします。
よくある質問
虫よけを使っていれば長袖は不要ですか?
虫よけだけに頼るより、長袖・長ズボンを組み合わせたほうが刺されにくくなります。特に夕方以降は服装対策を足すのがおすすめです。
予防薬を飲んでいれば蚊対策は不要ですか?
不要ではありません。予防薬はマラリア対策の一部です。デング熱や日本脳炎などは「刺されないこと」が重要です。
DEET30パーセントは誰でも使えますか?
成人では選びやすい一方、小児は製品表示の条件が異なることがあります。年齢や状況に応じて、診察時にご相談ください。
日焼け止めと虫よけはどちらを先に使えばいいですか?
日焼け止めを先に塗り、その後に虫よけを使うのが一般的です。
▶WHO guidelines for malaria(2025年8月13日更新)
▶CDC Preventing Mosquito Bites
▶CDC Preventing Mosquito Bites While Traveling
『海外旅行の医学:旅先で病気にならないための健康ガイド』
<医師 忽那 賢志>感染症内科専門医、医学博士。 日本最大のトラベルクリニックを擁する国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)にて、約10年間渡航医学・輸入感染症診療に携わり、現在も診療・研究などを行っておられます。 他の専門領域は新興再興感染症、新型コロナウイルス感染症で、メディアやインターネットなど様々な媒体で感染症の啓発に取り組んでおられます。 当院でも非常勤医師として診療いただいている他、トラベル外来の監修も行っていただいております。
