海外に行く前に知っておきたいマラリア予防の基本―知って、備えて、安心して渡航するために―
海外旅行や留学、出張などで渡航先が南アジア・東南アジア・アフリカのような地域になる場合、「マラリアってそもそも何?」「予防薬って必要なの?」という疑問を持つ方も多いと思います。
マラリアは、蚊に刺されることで発症することのある感染症です。
日本ではあまり身近ではありませんが、一部の地域では今でも重症化や死亡のリスクがあります。
しかし、事前に正しい対策を行えば、防ぐことができる病気でもあります。
このページでは、海外渡航前に知っておきたいマラリア予防のポイントを、できるだけわかりやすく解説します。
この記事で言いたいこと
・マラリアは重症化する可能性がある一方で、予防できる感染症です。
・渡航先や滞在内容によっては、予防薬の内服が強くすすめられます。
・予防薬と防蚊対策を組み合わせることで、安心して海外渡航ができます。
目次の各項目をクリックすると、記事の途中までジャンプすることができます。
マラリアとは
マラリアは、マラリア原虫という寄生虫によって起こる感染症です。
この原虫をもつハマダラカに刺されることで感染します。
空気感染や人から人への接触ではうつりません。
体内に入った原虫は肝臓→血液中で増えていき、次のような症状が現れます。
・高熱
・悪寒・震え
・頭痛、筋肉痛、関節痛
・強いだるさ
特に「熱帯熱マラリア」では、意識障害や臓器障害を起こし、治療が遅れると命に関わることがあります。
一方で、マラリアは予防薬の内服と蚊に刺されない対策によって、発症リスクを大きく下げられる感染症です。
マラリアが流行している地域
マラリアは世界中どこでも発生する病気ではなく、主に熱帯・亜熱帯地域で流行しています。
流行地域の確認には、CDC(米国疾病予防管理センター)や厚生労働省検疫所(FORTH)のマラリアマップが参考になります。
同じ国でも都市部と地方、雨季と乾季でリスクが異なる場合があります。
「国名」だけでなく「滞在する地域」と「行動内容(夜間の屋外活動など)」が重要です。
流行地域の例(目安)
・アフリカ:サハラ以南のほぼ全域
・東南アジア:タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオス、インドネシアの一部
・南アジア:インド、バングラデシュ、パキスタン
・中南米:アマゾン流域を中心とした一部地域
・オセアニア:パプアニューギニアなど
出典: Who International travel and health: module 3: malaria
自分の渡航先が流行地域かどうかわからない場合は、診察の際に医師にお尋ねください。
マラリア予防薬の種類と飲み方
マラリアの発病は、薬を正しく内服すれば90%以上予防できるとされています。
いだてんクリニックでは、マラリア予防として主に「マラロン」または「メファキン」を案内しています。
日本ではマラロンとメファキンが承認されており、ドキシサイクリンはマラリア予防目的では承認されていません。
特徴
血液中だけでなく肝臓内の原虫にも効果があり、流行地を離れた後の内服期間が短いのが特徴です。毎日内服するお薬のため、短期滞在にオススメです。
飲み方
渡航1~2日前から開始し、1日1回1錠を内服。帰国後1週間は継続します。
費用
750円/日(税込)
具体例
2週間の渡航では、22日程度(約22錠)の服用が目安です。
副作用・注意点
マラロンは、マラリア予防薬の中でも比較的副作用が少ないとされています。
- 吐き気、胃の不快感
- 下痢、腹痛
- 頭痛
- 食欲不振
多くの場合は軽度で、一時的です。食後に内服することで、胃の症状が軽くなることがあります。
内服できない方
妊娠中、重度腎障害
特徴
肝臓内の原虫には効果がなく、流行地を離れてからも4週間は服用を続ける必要があります。週に1回のみ内服のため、長期滞在にオススメです。また妊婦や子どもの使用も可能です。
飲み方
渡航1~2週前から開始し、1週間に1回1錠を内服。帰国後4週間まで継続します。
注意:不眠や気分の落ち込みなどの症状がまれに見られます。うつ病やてんかんの方(治療歴を含む)は使用できません。
費用
1,100円/週(税込)
具体例
2週間の渡航では、出発前~帰国後を含めて8週間(9錠)が目安です。
副作用・注意点
メファキンは、精神・神経系の副作用が出ることがある点が重要です。起こる可能性がある症状として、次のようなものがあります。
- ・不眠
- ・夢が鮮明になる、悪夢を見る
- ・不安感、気分の落ち込み
- ・めまい
- ・集中しにくさ
多くの方は問題なく使用できますが、精神症状が出た場合は、早めに服用を中止し、医師に相談する必要があります。
うつ病・不安障害・てんかんなどの既往がある方には、原則としてメファキンは使用しません。
ビブラマイシンは、海外ではマラリア予防に使用されることがありますが、日本国内ではマラリア予防薬としては未承認薬です。
当院では、マラリア予防薬としてのビブラマイシンは処方しておりません。
料金
トラベル外来は自費診療(保険外診療)です。費用は基本的に次の合計で算出されます。
(料金)=(診察料)+(検査代)+(お薬代)
| 区分 | 料金(税込) |
|---|---|
| 初診料 | 2,500円 |
| 再診料 | 1,000円 |
| 薬剤 | 内服方法(要点) | 料金(税込) |
|---|---|---|
| マラロン(1日1錠) | 渡航1~2日前から開始 帰国後1週間継続 | 750円/日 |
| メファキン(週1錠) | 渡航1~2週前から開始 帰国後4週間継続 | 1,100円/週 |
例:2週間の渡航(マラロンを選択した場合)
お薬:22日程度×750円=16,500円
診察料:初診2,500円(再診の場合1,000円)
+必要に応じて検査代(ワクチン前抗体検査など)
※最終的な総額は、渡航先・日程・必要な検査により異なります。
防蚊対策(薬と一緒に行うことが大切です)
マラリア予防は、予防薬だけでは完結しません。薬と一緒に「蚊に刺されない工夫」を行うことが重要です。
ハマダラカが活発に吸血するのは日暮れから夜明けまでの時間帯と言われており、特に夜間の外出は避けましょう。
ディートについての詳しい説明は下記のページよりご確認ください。
出典:アース製薬「アースサテラクト〜ディートとは〜」
防蚊対策
・虫よけ剤:DEET(ディート)を含むものを選ぶ
例: 医薬品 サラテクトミスト リッチリッチ30 200ml
・夜間の外出は控える
・長袖・長ズボンで肌の露出を減らす
・宿泊施設で蚊帳(かや)の有無を確認する
・蚊取り線香なども活用する
・日中も蚊に刺されない工夫を(デング熱や黄熱など、別の蚊媒介感染症の予防にもつながります)
予約
予防薬の処方や予防接種は予約なしでも接種が可能です。
予約の方を優先にご案内しておりますので、予定が決まっている場合は下記よりご予約をお願いいたします。
よくある質問
短期間の旅行でも予防薬は必要ですか?
地域リスクや滞在先の環境によっては、数日でも予防薬が推奨されます。国名だけでなく、滞在地域(都市部/地方)と行動内容をふまえて相談しましょう。
予防薬を飲めば100%防げますか?
100%ではありませんが、正しく内服することで発病を大きく減らせます。防蚊対策と併用することが大切です。
飲み忘れたらどうすればいいですか?
飲み忘れ時の対応は、薬剤やタイミングで異なります。気づいた時点で自己判断せず、医療者に相談してください。
副作用が心配です。
副作用の出方には個人差があります。特にメファキンは精神・神経系の症状が出ることがあるため、既往歴がある方は事前に必ずお申し出ください。
帰国後に熱が出たらどうすればいいですか?
必ず「マラリア流行地域に渡航していた」ことを医療機関に伝えてください。帰国後しばらくして発熱することもあります。
<医師 忽那 賢志>感染症内科専門医、医学博士。 日本最大のトラベルクリニックを擁する国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)にて、約10年間渡航医学・輸入感染症診療に携わり、現在も診療・研究などを行っておられます。 他の専門領域は新興再興感染症、新型コロナウイルス感染症で、メディアやインターネットなど様々な媒体で感染症の啓発に取り組んでおられます。 当院でも非常勤医師として診療いただいている他、トラベル外来の監修も行っていただいております。
